複合機(コピー機)業界について
投稿日:2025.08.01
ここで説明する複合機とは、コピー機、プリンター、ファックス、スキャナーが一体になった事務機器です。
要するに、紙原稿(英語でドキュメント)と紙印刷を扱うオフィス機器です。
どこの会社にも1台はあると思います。
複合機が持て囃されたのは2000年以前で、事務処理が紙から電子データーに移行するにつれ、使用頻度が減少しています。
それでも、判子の文化が残っていた頃は、印刷や電子データ化(スキャナー)のために必須でした。
事務処理のデジタル化は大企業から始まり、中堅企業までは完成しています。
残りの中小企業も政府が推進するDX化によって、オフィスから紙が無くなろうとしています。
昔は、小切手や手形もあったのですが、今は電子化されています。取引も紙書類ではなく電子取引になっています。
少し前まではパソコンを使えない中高年も居たのですが、今は正社員ではそういう人は殆どいません。
今はパソコンを使って、電子データで仕事をするのが当たり前になっています。
正に複合機にとっては、逆風が吹きまくっています。
業界では、1990年代から予測していたことが、今起きているということです。
複合機では、アフタービジネス(消耗品の販売やメンテナンス)がありますので、影響は4‐5年遅れています。
販売数が減ると、規模の小さなメーカーはやって行けないので、合併とか転業、廃業を考えます。
1990年代は、メーカーが11社ありました。
リコー、コニカ、三田(ミタ)工業、富士ゼロックス、キャノン、ミノルタ、シャープ、パナソニック、東芝、京セラ、エプソンです。(歴史の古い順)
かつては海外メーカーも多数ありましたが、日本メーカーが駆逐して、ゼロックスのみが競合になりました。
それが出来たのは、高度な技術(電気、機械、化学、物理、ソフトウェア)が必要であり、かつ、技術内容が殆どオープンにされていなかったからです。
確かに各社強力な特許はありますが、業界自体がJISやISOの標準化に消極的で、門外不出の技術としていました。
複合機は技術の擦り合わせ商品なので、大学等で研究している先生も居らず、参考書も専門書も余りありません。
業界全体で、完全に技術内容がブラックボックス化されており、いまでも続いています。
業界として、最初に統合されたのが、2000年の京セラによる三田工業の買収です。
シャープと三田工業は古くからお付き合いがあり、大判(A2サイズ)の複写機を三田工業からOEM購入しておりました。
余談ですが、三田工業の当時の社長は三田順啓さんで、ご存じの方は少ないですが、作家もされており、三田出版という会社も経営されていました。ちなみにミタのTVコマーシャルに出ていた阿川泰子さんは順啓さんの従妹らしいです。
毎年、お正月の挨拶に来られ、昨年度出版されたご自身の本を数冊お土産に貰いました。
三田工業は、大阪環状線沿い、玉造と森ノ宮の間にあり、戦後の古めかしい建物でした。
それが倒産の2‐3年前に現在の綺麗な大理石張のビルに建て替わりました。
おやっ?と思っていた矢先の倒産発表で驚きました。
負債も相当あって、えらいこっちゃ状態だったと記憶しています。
ところが、京セラが突如買収すると言い出したのには驚きました。(京セラにとっては安い買い物だったと思います)
2003年にはコニカとミノルタが合併、2011年にパナソニックが撤退、2024年には東芝テックとリコーが合併しています。
そして、2025年にはOKI電気のプリンター部門がリコーと合併しています。
2014年にシャープが倒産寸前になった時、中国企業から買収の話が出ましたが、業界を上げて反対し経産省を動かし、事業譲渡にはなりませんでした。その後、鴻海にシャープが買収され、この話はなくなりました。
中国も複合機の研究はしており、なかなか実用化はできず、2020年頃から複合機を中国で生産する日本企業に対して、研究開発も中国国内で実施するように規制を掛けてきました。
このやり方は、過去から他の産業でも行っており、日本メーカーにいた中国人技術者を引き抜き、技術を盗むのが目的です。
複合機メーカーは過去からこの動きを察知し、中国以外での生産を進めてきました。
2020年に発表があると、すぐさま中国工場を引き上げています。
一方、鴻海は台湾企業ですが、工場の大半は中国内にあり、複合機メーカーからの受託生産や内部ユニットの下請けをやっています。米国HPはプリンターで有名ですが、鴻海やJBIL(米国の受託生産企業で中国に多数工場がある)に生産委託をしています。なお、シャープの複合機はタイの工場で生産しています。
シャープの複合機も存続が怪しいですが、現状では黒字で問題はないようです。
液晶や半導体などの事業を次々と手放しているシャープですが、そう遠くない時期に、複合機も手放すのではないかと思います。
おわり
営業本部 エンジニアリンググループ
山本 一詞